竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

東電救済で歪められた電力システム改革

みなさんこんにちは。「はてなブログ」に引っ越して初めての長い投稿になります。2025年も終わろうというところで書いています。2025年中に発信できるか微妙ですが・・。


私は電気を消費者に供給する小売電気事業者です。「新電力」とも呼ばれています。2016年の電力自由化を機に2017年に参入しました。世界では電力自由化とは呼ばず、電力システム改革と呼びます。発電、送配電、小売という電力事業の全く異なる三つの業態をきちんと分離することが、効率を良くし、透明性も高め、電気料金が下がると考えたからです。果たして現在の日本の状況は「真逆」です。なぜこうなったのか、それを今から考察したいと思います。

 

1、    電力システム改革から10年

電力自由化、正式には電力システム改革の目標は、1)電気料金を下げる、2)電力の安定供給、3)多様な選択肢の拡大の3つでした。しかし実際には1)電気料金はどんどん上がり、2)古い火力とポンコツ原発を維持し、再生可能エネルギーの普及を阻んでいるため10年後には電気が足りなくなる危険が生じ、3)大手の規制料金が相対的に安い電気として維持され、多様な選択肢は限定的となっています。

目標は全く達成できておらず、改めて目標達成のためには何が必要で、何をすべきかが議論されなければならないのですが、「目標が間違っていた」という議論が行われています。わかりやすく言うと、「やっぱり電力自由化は無理だった。昔の10電力会社独占時代が良い。」と言う議論です。

2025年から電力システム改革「見直し」議論が始まったのですが、その中では、このような「独占回帰」の主張が強い勢力となっています。この背景には、政府の審議会委員の選び方の問題、審議会の情報選択の問題、議論の仕方の問題などがあります。議論は経産省資源エネ庁のいくつかの審議会や小委員会、WG(ワーキンググループ)で行われていますが、委員選任は国会承認マターになっています。候補者は与野党から提案されますが、基本的に与党が提案した候補が選ばれます。多数決だからです。結果的に、大手電力や原子力・火力発電の業界関係者や学者等がずらりと並ぶことになります。

事務局である経産省のお役人は中立なはずですが、政府系のREITI(独立行政法人経済産業研究所)や電力系の電力中央研究所、キャノングローバル経済研究所などのシンクタンクの情報が大量に流れ込みます。地球温暖化の事実さえ否定するような旧来型思考が、ここでは今もまかり通っています。再エネ憎し、原発守れ、火力を守れというような意見が大勢で、聞いていると頭がクラクラする世界があるのです。

 

2、    何が電力自由化失敗の原因?

この政策決定過程の存在が失敗の最大原因であることは明らかですが、この化石頭の学者・専門家と呼ばれる人たちによって作り上げられる制度・仕組みが、具体的に失敗を決定づける役割を果たしています。その制度・仕組みをいくつか見てみましょう。

 

1)    上がり続ける託送料金

電力自由化しても電気料金が下がらず上がり続ける理由は、託送料金という「送電線使用料」が上がっているからです。政府は託送料金の値下げのために「レベニューキャップ」制度を2023年から導入しています。収入総額にキャップをかけ(つまり託送料金の上限設定)、想定より効率よく原価を下げれば、より多くの利益を得られる制度です。キャップは5年ごとに見直されるのですが、下がるのではなく上がっています。政府が原子力関連コストの託送料金原価算入を認めたからですが、原子力関連コストにも複数あります。

第1に認められたのは、原子力損害賠償費用の「過去分」です。福島原発事故で東電は多額の損害賠償責任を背負いました。2016年に総額8兆円と算定されましたが、東電経営を助けるには、少しでも東電負担を減らす必要がありました。そこで東電は特別負担金、他の原子力事業者(関西電力中部電力などで、この中にも東電は含まれます。)が一般負担金を支払うことで負担を減らしました。さらに、そのうち3.8兆円は過去に消費者から徴収しておくべきだった費用だとし、原子力事業者分を1.4兆円とし、残る2.4兆円は新電力の消費者を含む全消費者の負担が適当だと勝手な解釈をして、託送料金から徴収することにしたのです。(図1)

図1 原発事故の損害賠償の「過去分」

原子力関連の賠償過去分・廃炉会計費用 に係る措置について」2020年8月 資源エネルギー庁

 

このときに、第2の関連コスト「原発廃炉費用」も託送料金からの徴収が決められます。原発廃炉解体費用は巨額で、大手電力会社の経営を圧迫します。そこで事前に廃炉解体費用を積み立てる「廃炉円滑化負担金」という制度が2020年に作られました。本来自分の利益から積み立てるべきものですが、消費者負担の託送料金に算入されました。

この二つは託送料金の上乗せ費用として明示されていますが、金額の公開されていないものでもっとあります。第3の関連コストは大手電力各社が分担する「一般負担金」です。「レベニューキャップ制度」の原価算入が認められ、結局託送料金になっています。

さらに第4は東電単独の「特別負担金」です。これも託送料金の原価に算入されています。東電エリアの消費者は全員負担させられています。

第5に登場するのは、東電の福島原発の事故処理費用です。「廃炉等負担金」という名目で、東電エリアの送配電事業者である東電PG(パワーグリッド)の託送料金費用に入っています。ここで「廃炉」というのは福島原発の事故処理のことです。一般的な原発廃炉とは全く異なるので注意してください。

原子力損害賠償・廃炉支援機構(以下「機構」という。)」という政府の組織ができ、東電株式の50%以上を保有し、損害賠償と事故処理(廃炉)に政府が集めたお金(税金ではない)を投入しています。一般負担金や特別負担金は損害賠償のために交付された資金の返済金です。事故処理に関しては「廃炉等積立金」という名目で、東電HD(ホールディングス)が積立て、事故処理費用が必要になると「機構」が積立金から交付する仕組みになっています。

図2 原子力損害賠償・廃炉支援機構の仕組み(会計検査院の図をもとに筆者作成)

東電ホールディングスの傘下には東電FP(フュエル&パワー)という発電会社と東電EP(エナジーパートナー)という小売会社の三つがありますが、EPは電力自由化の中で慢性的赤字、FPもほぼ利益はありませんので、託送料金で利益を上げられる東電PG(パワーグリッド)がほとんど一手に負担しています。その額はざっと1200億円規模で、堂々とレベニューキャップの費用として計上され、消費者負担となっています。

 

2)    再エネを増やさない仕組み

東電をはじめ大手電力は多くの発電所保有しています。その大部分は石油火力、天然ガスLNG)火力、石炭火力そして原子力です。ダム水力も一定程度あります。これらの発電所はいずれも電力自由化前の独占時代、総括原価方式という仕組みで、発電所建設などのかかった費用はすべて消費者負担となる「原価」として、それに利益率をかけるという安易な経営を認められていた時代に作られたものです。

わかりやすくいうと、発電所の採算性など考えなくてもよかった時代です。かかった分だけ消費者に請求するから、電気代は下がらない。それで電力システム改革が必要ということになったのです。すべて消費者のお金で作られたものですから、電力システム改革後には、すべての消費者が平等に使えるものにするべきだろうと思います。つまり発電会社を分離して、どんな新電力でも契約できるという形にすべきです。

化石や原子力発電所だから要りませんという立場はあるでしょう。そうして多くの消費者が選ばなければ、その電気は売れず、発電会社は舞台から退場するわけです。ところが大手電力は今も全体の8割に及ぶ発電所保有して、市場を支配しているのです。

「市場支配」という難しい単語が出てきました。市場というのは「電気の市場」のことです。電力システム改革のあるべき姿は、この電気の市場で新電力が電気を仕入れ、自らの消費者に多様なサービスを絡めた電気を販売するということです。ところが、大手電力が発電所をほぼ独占しているため、市場には電気が並べられないのです。現状の電気の市場は、電力需要全体の30%以下です。うち10%くらいは大手電力の電気が並べられていますが、その量はさまざまな理由で増減します。市場は売り手と買い手の量で価格が上下しますので、売り手の大手電力が電気を出し渋ると価格は上がります。ほとんど市場空っぽになって、電気の仕入れ価格が10倍、20倍になったのが2021年の市場価格高騰でした。価格操作したという証拠は上げられていませんが、ルールに従った運用をしてもこのようなことが起こるという意味でもあります。

一方で新電力は電力システム改革の正当なルールに基づいて市場に仕入に行くのですが、大手電力はそれを「ただ乗り」と称して非難しています。新電力から見れば、消費者の資金で100%作った発電所を、電力システム改革後も一部の(自分の)小売会社にしか使わせない大手電力の方が「発電所のただ乗り」だと思います。彼らに、これら発電所から利益を上げる権利はないのです。

このような状況で再エネが急激に拡大したらどうなるでしょう。彼らが独占し続けた発電所は陳腐化し無用の長物になります。市場支配力も無くなります。だからああだこうだと理由をつけて再エネの拡大を阻むのです。再エネを妨害するのに、最高の武器を彼らは持っています。送電網です。再エネも送電線に繋いでもらわなければ電気を売れません。送電線に繋ぐのを専門用語で「連系」と言います。再エネを増やさない仕組みその1は、「連系させないこと」です。

送電線の容量がいっぱいで新規再エネは繋げないということが2020年前後には激しくなりました。実は送電線は数%しか使われておらず、ガラガラであることが判明しています。ガラガラなのになんで「いっぱい」というのかというと、それは休止中の発電所原発や石炭・石油火力)が今後動くことを前提に「空けて」おかねばならないという理屈でした。容量がいっぱいなのではなく「権利でいっぱい」ということです。これらの不要な発電所を廃止にすれば、実は送電線はスカスカになるはずなのです。

 

図3 送電線を「空押さえ」している古い発電所

しかし今度は、発電所の新設がなく10年後には電気が足りなくなるかもしれないから古い発電所は安易に廃止できないと言いはじめました。「権利確保」で再エネをブロックです(図3)。それでもガラガラですから、古い発電所が「再稼働」するまでは送電線を使わせてあげようというサービスが開始されました。これを専門用語で「ノンファーム接続」と言います。「ノンファーム接続」と引き換えに始まったのが「抑制」です。

需要に対して発電量(電気の供給量)が上回ってくると、放置すると周波数が乱れ、北海道のブラックアウトのような事態に発展します。そこで何かの電源を止めないといけないのですが、原発や石炭火力を優先して動かし、再エネは止めるというのが我が国のルールになっています。

原発や石炭火力を止めないのは、これらは需要変動に機敏に反応できない発電システムだからです。電力需要は30分ごとに刻々と変化しています。需要の変動にできるだけ対応して発電できることを「効率が良い」というならば、原発や石炭火力は最も効率の悪い発電システムです。再エネはお天気次第で気まぐれのように思うかもしれませんが、気象には連続性があります。日本の場合、ほぼ西から東に動いていきます。性能の良いAIであれば正確に予想することが可能で、それによって10分後、20分後の発電量を計算することができるのです。需要を上回れば止め、不足するなら予備電源を立ち上げるというオペレーションで良く、世界中で行われていることです。

「最も効率の悪い」発電所をもっと作らせようとするのが「容量市場」そして「長期脱炭素電源オークション」です。脱炭素と名前がついていても、これは再エネのためのものではありません。原発アンモニア混焼の石炭火力など、通常だと採算が合わないシステムを無理やり作らせる仕組みです。その資金は新電力から拠出金という名目で徴収されます。新電力の電気代の原価になりますので、結局支払わされるのは消費者です。これも電気代を上げます。

大手電力の小売部門も拠出金を払いますが、その大部分は大手電力の既存発電所に渡されます。つまり大手電力の財布に戻ってきます。原発や石炭火力を持たない大多数の新電力には、お金は戻りません。大手電力は拠出金を電気代に反映する必要がなく、新電力との電気料金原価に格差が作られたということです。(図4)

図4 旧一電(大手電力)に拠出金が移動する容量市場

3)    大手電力独占の継続

再エネ拡大をいろいろな理屈をつけて、巧妙にブロックするのは、もうお分かりと思いますが、大手電力のしようもない発電所を維持するためです。それらが現役でいて、需要の大半をカバーしていなければ「市場支配力」は失われてしまうのです。海外では、大手電力のような発電も送配電も小売も一手にやっていたような会社は、多くは送配電会社として独立しています。送配電は電力システム改革後も不可欠な仕組みで、最も儲かる事業だからです。

新電力に顧客を奪われる小売は、どんなに頑張っても以前のようには維持できません、縮小しかないのです。発電は再エネとの競争にさらされます。国際的には原発化石燃料と再エネの価格差はもはや明確です。サウジアラビアのように2円/kWhを切るまでは行かないにしても、日本でも10円/kWhを切るものも現れています。政府試算でも原発は12.5円/kWh以上、石炭は13.6円〜22.4円/kWhという数字で、この数字もいろいろ下駄を履かせているだろうと思います。まともに競争したら勝てるわけがないのです。

今はいろいろな規制強化や日本独自規制などで障壁を設けて、なんとか再エネコストを押し上げて競争力を確保しようとしていますが、無駄な抵抗だろうと思います。大手電力も生き残るためには早く再エネに舵を切った方が良いのです。が、それが簡単にできない日本の特殊事情があります。それが福島原発事故への責任という難しく複雑な問題です。

 

3、    柏崎刈羽原発を動かしても電気代は下がらない

東電は電気代値下げのために柏崎刈羽原発を動かすのだと言っています。しかしその根拠は、単に輸入燃料代金の削減もしくは、市場からの電気購入額の削減ができるからという話に過ぎません。原発を動かすというのは、ただボタンを押せば良いわけではなく、動かす前の点検、ウラン燃料装荷、そして休止中はいなかった運転要員が配置につきます。2011年以降長らく止まっていたわけですから、点検は念入りに行われるはずで、通常と同じ箇所、同じ時間、同じチェックではないはずです。場合によっては部品交換も必要になります。

毎日新聞では再稼働により発生する固定費から逆算して、1000億円の削減額は吹っ飛んでしまい、結局負担の方が増えるのではないかという試算を展開しています。いろいろな角度から、この再稼働は東電経営を助けないという分析が出されているのです。

毎日新聞2025年12月16日「「柏崎刈羽原発再稼働」実は収支マイナス?東電に聞いてみた」

 

固定費といえば、福島原発事故前にはなかったような安全基準、安全規制が追加されており、そのための費用がかかっていますが、再稼働に必要な費用にはカウントされていません。動いても動かなくても、どうせかかった費用と言いたいのでしょうが、柏崎刈羽6号機はまだ原子力規制委員会の再稼働基準を満たしていません。

「特定重大事故等対処施設」(特重施設)というもので、原子力産業新聞によると、「新規制基準で要求される特重施設は、『意図的な航空機衝突等による大規模な損壊』で広範囲に設備が使えない事態を想定した原子炉格納容器の破損を防止するバックアップ施設。」と書かれています。「本体施設の設計・工事計画認可(設工認)から5年間の整備猶予期間が設けられており、6・7号機それぞれ2029年9月、2025年10月が設置期限」となっていました。ところが工事が間に合わず、それぞれ2031年9月と2029年8月に変更しました。7号機が先に再稼働の予定でしたが、期限までに条件を満たせなくなったので再稼働を延期し、最初の期限まで猶予のある6号機を「特重施設」のないまま再稼働させることにしたのです。驚愕のアクロバットで、よく原子力規制委員会が認めたものだと思います。

つまり6号機をここで廃炉にしておけば、この特重施設建設費用は不要だったわけです。その無駄なコストを、東電は電気代値下げ計算ではカウントしていません。「特重施設」の建設費用は数千億といわれています。実はこれだけで、東京電力の言う1000億円の値下げ効果は吹っ飛ぶのです。

問題はこれだけではありません。東電は電気代削減の根拠として電気の市場購入がなくなるからと主張していますが、大手電力は市場の電気はほとんど購入していません。購入するのではなく「売りに出す」のが役割です。購入していないのに「購入価格が下がる」と言うのは、どう考えても虚偽説明かと思います。

 

4、    東電経営は本当に厳しいの?

福島原発事故後の東電経営はどうなっているのでしょうか。最近はマスコミでも指摘され始めていますが、東電の経営状態は極めて悪いのです。存続しているのは、「原子力損害賠償・廃炉支援機構(以下「機構」という。)」という政府機関が東電の損害賠償費用を立替払いしているからです(図2参照)。政府が交付国債を発行し、それを担保に金融機関から資金を集め、それを東電に交付(事実上は貸付)し、東電が損害賠償で破綻しないようにしてきました。東電は経営を立て直し、この借金をさっさと返して世界に羽ばたく優良企業になるというのが政府のシナリオでした。

残念ながら事故から15年、シナリオは破綻しつつあります。まず損害賠償額が政府設定の8兆円を超えてきました。すでに11兆4,534億円(2025年12月末時点)となっていますが、東電の返済(特別負担金と一般負担金の合計)は、毎年2000億円に届かず、これまでに2兆円程度です。さらにここにきて明確になってきたのは、事故処理費用の不足です。こちらは東電が毎年「機構」に「廃炉等積立金」を積み立て、実際に事故処理が行われるときには、ここから「機構」が支出をする仕組みになっています。(図2参照)
これも政府見積もりは8兆円でしたが、デブリ取り出しや廃棄物処理費用など含め、とてもこの金額では収まらないことが明確になってきました。一説には80兆円という数字もあります。これまでは1000億円程度だった東電の「廃炉等積立金」を10倍程度に引き上げないと間に合いません。東電は毎年、損賠賠償1兆円、事故処理費用1兆円を捻出しても間に合わないという実態が見えてきているのです。

それにもかかわらず柏崎刈羽原発では5000億円かかるような「特重施設」を2つも作ります。毎年1kWhの電気も作っていない日本原子力発電の東海第2原発には、基本料金を払い続けていますし、再稼働のために必要な堤防嵩上げ工事のための費用を「基本料金の前払い」というアクロバチックな方法を使ってまでお金を出し続けています。柏崎刈羽原発再稼働のために、地元新潟県に1000億円というのも大盤振る舞いです。経営が成り立つとは思えないのに、東電HD自身はそれほど焦っている風でもありません。

 

5、    送配電を分離できないわけ

そのような東電の振る舞いと、政府の対応を見てみましょう。電力システム改革の1)電気料金値下げ、2)電気の安定供給、3)多様な選択肢という3つの目標とは違う、政府の目標が見えてきます。言葉にすると「東電を存続させ、政府が東電に貸した金を回収する」でしょうか。福島事故調後に東電を破綻させ、政府として損害賠償をし、事故処理を行うというのが嫌なばかりに、東電存続の無理筋を通してきたのですが、暗雲がたなびいているわけです。

この文脈で電力システム改革を見ると、その1丁目1番地である、大手電力と送配電の分離を行わなかった理由が見えてきます。世界に羽ばたいてくれないと困る東電において、東電PGという送配電部門は、東電唯一の稼ぎ頭なのです。事故を起こしたのは発電部門です。発電のコストと送配電のコストはきっちりと分離することが必要です。しかし、損害賠償や事故処理の費用を「送配電」から捻出しない限り、東電が損害賠償や事故処理の責任を果たすことは無理なのです。

電力システム改革実施の直前に東電福島事故が起きなければ、この改革はもう少しマシな道のりを進めたかもしれません。送配電部門を分離し、完全な別法人として、小売や発電との人的交流も認めないという原則的な立場をとれば、電力市場はもう少し公平中立なものになったと思われますし、小売部門による送配電部門の情報流用という不正もなかったはずです。もしそうなっていたら、東電は利益を上げることができず確実に破綻したでしょう。

一方で、このような東電配慮が、他の大手電力には大きな補助になったのではないかと思われます。原発保有する大手電力は、一般負担金という形で損害賠償の一部を肩代わりさせられましたが、すぐに託送料金の原価算入が認められ、事実上経営には影響がなくなりました(電気料金は上がりますが。)。

詳細な分析はできていないのですが、東電以外の大手電力も、託送料金はほぼ似たり寄ったりの額になっています。しかし、東電PGだけが特別負担金や廃炉等積立金の負担を負っているのです。どう考えても似たり寄ったりになるわけがありません。他の大手電力の送配電会社が、あえて東電PGに合わせてきていると思います。

東電エリアの託送料金だけが突出して高額になっていないのは、他の大手電力が東電の託送料金に便上し、特別負担金や廃炉負担金分の「含み利益」を上げていると考えられなくもありません。さらに送配電側への原発関連コストの算入は、これら他の大手電力が原発を推進し、再稼働を促進する上でのインセンティブになります。

政府は2025年の12月に、とんでもない制度を作ることを明らかにしました。「原発新設に対する融資制度」です。融資を行うのは金融機関ではなく「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」です。送電網の元締め的管理を行う機関が、原発を作る電力会社(100%大手電力です。)に2兆円を超えるような多額のお金を貸します、そのお金はどこから来るのかというと、財政投融資だと言います。政府が国債を発行し、その売上をOCCTOに交付し、OCCTOの貸金の原資にします。OCCTOはそのお金を原発新設を表明し融資を求めてきた大手電力に融資します。融資なので返済しなければならないのですが、その返済の仕組みはすでに作られています。長期脱炭素電源オークションで落札されていれば、発電所が動き出した後に、20年から30年間かけて「容量確保契約金」が支払われ、その中からOCCTOへの返済ができるというわけです。(図5、図6)

 「容量確保契約金」の元になる「容量拠出金」を支払うのは新電力で、ひいてはその消費者です。国債で作って、消費者の電気代で返済させる仕組み。こんなのを許せますか?

図5 原発新設に対する融資制度

「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ(案)」120ページ 2025年12月10日 資源エネルギー庁

 

図6 長期脱炭素電源オークションの仕組み

6、    市民・消費者に求められる取り組み

最後になりますが、2026年はいよいよ「電力消費者が怒る年」にして欲しいと思います。2011年に福島第一原発事故が発生して以降、電力システムはタガが外れたような無法状態にあるとも言えます。原子力を推進してきたことを反省し、地球温暖化を含む環境問題に向き合い、最も安価ですでに完成された技術である太陽光発電風力発電を最大限活用できるようなインフラ整備や、地域との共生ルールを作るべきだったのですが、全ては置き去りにされました。

「福島への責任」をスローガンに、政府は東電を維持し、原発を守り、優遇の道を作り続けました。「原子力損害賠償・支援機構」や「原子力規制委員会」、「容量市場」や「長期脱炭素電源オークション」などです。しかし、それが何をもたらすかが、いよいよくっきりと見えてきたのではないでしょうか?もたらされるのは、電気料金の果てしない値上がりと、大停電を含む電力危機の危険性増大、そして新たな原発過酷事故です。

2026年には消費者から「もうやめなさい!」の声をあげましょう。電力システムは長らく大手電力が支配し、複雑で難解で素人にはわからないと思い込まされてきました。しかし実は簡単な仕組みです。太陽光発電はあらゆるところで発電が可能です。送電線が全面開放されれば、風力発電水力発電を含め、あるいは蓄電池も使って、再エネで日本全体の電気を供給することも可能になります。電気の消費者自身がその情報とスキルを獲得していきましょう。

 

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